中国に絵本文化の種を蒔く

ポプラ社が中国法人蒲蒲蘭(ププラン)を立ち上げたのは2004年で、13年前になります。

中国では出版事業は海外企業には開放されていないので、当初は小売り事業や卸事業からスタートしました。もともとの中国展開の動機は、それまで中国には子供の本には欠かせない絵本がなかったので、それを中国で広めていきたいというものでした。


そこで、まずはマーケティング・リサーチも兼ねて絵本の専門書店をオープンし、2005年の北京を皮切りに、上海、天津、瀋陽と絵本の専門書店を展開しながら、ププランのブランディングをめざしました。


小売りの開始と共に、本来の目的である中国の絵本のプロデュースも開始しました。中国の国家出版社と共同出版の形で、絵本ブランドも書店名と同じ<蒲蒲蘭絵本館>というカワイイ響きのあるブランド名にして、絵本制作のチャレンジを始めました。


中国にはそれまで、絵本という書籍の概念がなかったので、当時は絵本作家もいません。当然、学校の図書館にも入っていないので絵本の市民権自体がありませんでした。ですので、はじめは作家と画家の組み合わせで制作することが多かったですね。


有名な画家さんに絵を描いてもらい、絵を買うのではなく出版印税を支払うというこれまでにはなかったビジネスモデルを理解してもらうようなこともありました。もちろん中国人の絵本編集者もいないわけですからまったく一からの組み立てです。私たちの目標は、まさに絵本の文化を中国に根づかせるということだったのです。


中国のオリジナルの絵本の記念すべき第1作は、中国の朝市をテーマにした本で、文章も画家の方が創りました。それを皮切りに、今では40冊ぐらいの作品が生まれ、2018年度には50冊ぐらいになる予定です。


絵本は絵と文章が一体となって表現されるものですが、当初はそれがなかなか中国の人には理解されず、まさにそうした文化を知ってもらうことから始めました。その意味では“啓蒙”や“推進”も重要な事業でした。


絵は絵、文章は文章という考え方だったので、それが一つの画面の中に構成される絵本は、中国の読者にとって新しい初めての体験だったのです。読者からは、絵本の余白になにか言葉を書いてもいいのかというような質問をされたこともあります。


“創る”事業の方は、古典や名作を絵本化することから始めたり、美大の卒業展覧会に行って新人作家をスカウトすることもやりました。そんな活動をしていくうちに、中国人のクリエイターによるクリエイティブ力もだんだん上がってきて、写真と絵を組み合わせたり、オリジナルのキャラクターが開発されたりしてきて、ある意味、日本での絵本像からはみ出すようなユニークな作品も出始めています。


それらは、中国のデジタル技術の発達によることも多いように思います。日本の作家の固定観念を打ち破るような新しい発想も出始めています。2010年頃が一つの大きな変わり目になりました。それはこれもITの影響とも言えますが絵本がECで広がり始めてきたということです。


子供書籍のシェアが一番の当当(dangdang)NETというネット書店が積極的に絵本を展開するようになり、弊社や台湾の会社などが創り始めた絵本が売れるようになりました。その辺から徐々に絵本の文化が中国に浸透し始めてきた感じです。


そんな流れから絵本業界でも海外から買って輸入することから自ら創るという方向に変わってきていると思います。中国政府の「原創」という「オリジナルを創りそれを海外に売る」ことを奨励している流れにも合致してきて、大資本が制作に乗り出してきている現状もあります。やるときは一気にやるのが中国流です。


そんな背景からも若い世代の作家が育ちはじめて、中国ならではの新しい動きが起こっています。それはアプリやネットへと展開していくことで、絵本がいわゆるIP化していく動きです。絵本で作ったキャラクターをWeiboのスティカーにしてみたり、絵本キャラクターをアプリで動かしてみたり、成熟している日本の絵本業界では行わないようなことを中国の若手の作家やスタッフはチャレンジしようとします。


最近では中国も権利意識が高くなり、日本では考えられないことですが、絵本作家が権利を切り分けて商売をするような感覚をも持ち合わせてきています。創り出した中国の絵本ビジネスの環境も、新しい若い作家の登場で、これまでの日本が培ってきた絵本文化の枠組みを乗り越えるような動きが起こってきています。



石川  郁子  (いしかわ  いくこ)
株式会社ポプラ社中国現地法人 北京蒲蒲蘭文化発展有限公司
董事・総経理(COO)
東京都生まれ。東京女子大学文理学部日本文学科・同大学院日本文学専攻卒業。塾講師などを経て1989年中国に語学留学。91年から2000年まで中国外文出版社に翻訳スタッフとして勤務し、日中共同出版雑誌『日中経済ジャーナル』副編集長を経て、フリーの著述・翻訳業、ホームページ「サイバーチャイナタウン」の運営に携わる。訳著に『北京無頼』(王朔 著)、著書に『北京で七年暮らしてみれば』。00年にポプラ社の中国事業に参入し駐在事務所代表を務め、04年から現職。北京蒲蒲蘭ホームページ http://www.poplar.com.cn

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