前橋市スーパーシティ構想 :自分らしい人生を幸せにおくる未来都市

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年5月号『土地の地力 魅力度ランキングかい? 実はすごいぞ群馬県 』に記載された内容です。)

前橋市(未来政策課)は地域デザインを推進しています。未来政策課(2020年度までは未来の芽創造課)は、「街や人が笑顔に幸せになることを目的に、本市の暮らしやすさや多様性、寛容性を土台としながら、人と人とのつながりや心の豊かさを大事にする価値観で、新たな価値の創造に取り組む人やコトを支える」ことをミッションとして、未来型政策、民間共創、シティプロモーション、ふるさと納税、移住政策等により、今までの地域の再構築、言わば「地域×デザイン」を展開しており、その積み重ねが今回の「前橋市スーパーシティ構想」だと考えています。

 


1.新政策思考


 

未来政策課は、高度成長から地盤沈下の時代となっていることを、都市の将来性が喪失(人を惹きつける魅力や活力が欠如し、それが社会的に固定され、新たな投資が行われない)していることを、本当に自分事として認識して、「今までの考え方、価値観、やり方等々を変えること」が重要であると考えています。

その、地域の将来を変えるまちづくりのキーワードは「地域経営」です。市民、企業・団体、行政、それぞれが「他人ごと」でなく「自分ごと」として地域の課題を捉え、自主的・自律的に、また、連携して課題解決に取り組むことが重要です。そして、地域が共有する価値観を変えることも必要です。経済成長が限界を迎え、社会の成熟化が進み、東日本大震災、今回のコロナ対応を踏まえたうえで、これまでの「モノやお金に過度に依存する価値観」ではなく、「地域とのつながりや心の豊かさを重視する価値観」に地域全体が変わることが重要であると考えています。

そして、その教科書的な概念以上に重要なことが、個人的な考えを前提に言えば、政策を取り巻く現状も変容していて、対応(政策立案と推進)を変える必要があることです。今まで、過去何十年と、政策は「理想と現実をつなぐ手段」であり、大きな特徴として、「目的と手段の関係で体系化されていること」が政策としての考え方でした。

その考え方に基づき、目的と手段で体系化するために、地域では“総合計画”を策定し、健康福祉、環境、産業等々の部署により、政策が進められました。しかし、現在の“少子高齢化”“コロナ対策”“生活保護対策”等々、社会における課題が複雑化しています。単純な問題でもなく複合的な問題でもなく複雑化しています。最新鋭の車は多分何十万何百万の部品から成り立っているでしょうが最終的には部品(要因)による複合化したものです。

現在の課題や問題は決して要因をきちんと分析することができない、複合化でなく複雑化した課題が多くなっています。傷口に絆創膏を貼る“単純な課題と対応”でもなく、複数あったとしてもその要因を分析できてそこから課題解決を図る“複合的課題と対応”でもなく、複雑で厄介な課題とその対応が必要になっています。

その対応のヒントになるのは「システム思考(byデイヴィッド・ピーターストロー)」です。「群盲象をなでる(評す)」とする現代の複雑化した課題に対する政策は、目が見えない状態で、いろいろな場所(分野)で象を触って課題の解決を図っているようであり、象の横を触っている人は「壁」だと考え、耳を触っている人は「うちわ」だと考え、鼻を触っている人は「ホース」だと考える。

「壁」「うちわ」「ホース」の課題解決、最適化を図っても、決して「象」の最適化にはならない。これが「複雑な問題」「地域の課題」に対しても同様で、「福祉」「環境」「産業経済」等、従来どおりに、それぞれの“部門最適化”を図るだけでは、全体最適化、地域の最適化を図ることができないと考えています。

もちろん、従来のやり方“部門最適化”がいらないとすることでは決してなく、従来の部門(課題)最適化と新しい全体最適化のバランスによる“新政策思考”が重要だと考えています。その全体最適化を考えた“新政策思考”による地域経営が「地域デザイン(地域を新政策思考により再構築すること)」です。そのことを多くの皆さんと共有、実践したいと考えています。

新政策思考による地域デザインの特徴は、①ビジョン(新しい価値の創造)、②EBPM+ファクトフルネス、③従来の課題最適化と全体最適化のバランス、全体を俯瞰したシステム思考とデザイン思考のバランス、④チャレンジ、アジャイル、コレクティブインパクト、高速PDCA等の手法と考えています。そして、必要なことは、普遍的なことですが、“知ること(地域、世界、事実)”、“考えること(判断する)”、“実行すること”、“つなげること”であると考えます。

 


2.「前橋めぶくグラウンド構想」
~「だれ一人取り残さない」「パーソナライズ」されたサービス~


 

その新政策思考の考えを基に今回のスーパーシティ構想を策定しました。スーパーシティは、医療や農業等で規制緩和により先進的な取り組みを特別に行う「特区」の一つで、規制緩和と最先端デジタルにより、10年後の未来都市を先行実現する国家戦略特区です。そして、このコロナ渦で痛感した、第4次産業革命に対応した世界のスマートシティ(「バルセロナ」「アムステルダム」「杭州市」等)に追いつき追い越すように、未来を切り開く日本のモデル地区を指定・集中支援して、将来的に全国に横展開を考えている構想です。


今までの前橋市のまちづくり特徴は、「マイナンバーカードの先進利用」「自動運転やMaaS等のスマートモビリティチャレンジ」「EBPMの推進」「成果連動型(PFS・SIB)の新しいファイナンス」等の未来型政策の推進(ICT推進)と同様に、民間と連動したまちづくりです。2016年8月にグリーンドームで4,000人集めて発表した官民連携の前橋ビジョン「めぶく。」をきっかけとして、「太陽の会、太陽の鐘」「アーバンデザイン」「グリーン&リラックス」等々の取組、「民間共創」を行ってきました。

そうした「民間共創」と「未来型政策推進」をベースに、今回の前橋市のスーパーシティ構想のコンセプトが「スーパーシティ×スローシティ」です。前橋市が目指す未来都市は空飛ぶ車が飛び交うようなSF的な未来ではなく、「市役所や銀行が土日開いていない」とか「子供が急に熱を出して保育園やどこも預かってもらえずに誰かが仕事を休まければならない」とか「引きこもりの子供や海外にいる子供がオンラインで学んでも単位がもらえない」等々の日常の困りごとや障壁を、規制緩和とデジタルの力で解決して時間と心のゆとりをつくり、その時間と心のゆとりで、自分らしい人生を幸せにおくる、そんな未来都市です。

その未来都市、コンセプトを実現するためには、「誰一人取り残さない」「パーソナライズされた」サービスで実現することになります。別の言葉で言えば、今までのように「技術に人が寄り添う」のでなく、「技術が人に寄り添う」、人を中心としたサービスです。そして、そのサービスを実現するインフラとして、「ネット上でなりすましができない」「利便性の高い」新しいIDである「まえばしID」やセキュアでパーソナルな情報を扱うために、公園や道路を市が整備するように通信網を整備する「まえばしmobile通信網」を整備します。

その先進的なサービスとインフラを基盤に、「だれ一人取り残さない」「パーソナライズ」されたサービスにより、“一生学び、育ち、新たな価値がめぶく街”をつくるのが前橋市のスーパーシティ構想である「前橋めぶくグラウンド構想」です。

 


3.さいごに



新しい時代、日本、地域の未来に必要なことは、考えること、判断することだと思います。大事なことは、誰かに教えてもらう、誰かに任せるのでなく、自分、地域が考える。なぜなら、複雑で厄介な問題が多いこの現代には正解はありません。

現代は、今までの「坂の上の雲」に代表される工業社会、高度成長、正解、経済的な豊かさを求めた時代ではなく、「坂をゆっくり下る」ポスト工業社会であり、最適と判断される解、精神的な豊かさを求める新しい時代と言われています。その新しい時代、地域の将来に必要なのは「地域経営をキーワードとしたまちづくり」「地域が共有する価値観、ビジョン」「新しい価値に対する多様性、寛容性」であり、街を人を幸せにするための新しい価値の創造を行う「地域デザイン」だと考えています。

そして、その新しい価値の創造を行うために重要なことは、「チャレンジ」と「アジャイル」です。「私一度も失敗しないので」ではなく、「前向きな精神と準備で挑戦(チャレンジ)」することと一度決めたことでもEBPMに基づき「寛容に柔軟に修正(アジャイル)」することです。

この新しい時代に、スーパーシティ、地域を丸ごとアップデートするスマートシティを実現して地方創生を図り、何より、人や街を幸せにするためには、未来志向で部門の最適化から全体最適化、成果連動型委託のPFSやSIBをベースとした新しいファイナンスを踏まえた産学官民の真の連携よるまちづくりのビジネス化、「誰一人取り残さない」「パーソナライズされた」最先端のDX等により、それぞれ多様な人が毎日を自分らしく暮らしやすい豊かで安全で安心な生活に変えていく、個人が主役の豊かで安全な持続可能都市を創ることが重要だと考えています。

前橋市スーパーシティ構想のイメージ

 

谷内田 修  (やちだ おさむ)
前橋市未来創造部未来政策課課長1989年早稲田大学商学部卒。1989年前橋市役所入職。市民課で「戸籍システム化」「住基ネットワーク」、道路建設課で「まちづくり交付金事業」、観光課で「赤城山ヒルクライム実施プロデュース」等の対応後、2012年に秘書課政策担当副参事として政策全般、2015年に政策推進課長として「総合戦略」「民間共創(前橋ビジョン、太陽の鐘)」「前橋〇〇特区」等を所管後、2017年より未来の芽創造課長(2021年4月より未来政策課長)として、ふるさと納税の「タイガーマスクプロジェクト」「きふと。」、未来型政策の「官民ビックデータ活用によるEBPM」「人材育成定着めぶくプラットホーム」「SIB事業」、そして「スマートシティ」「スーパーシティ」を所管。2000年日本計画学会計画賞、2017年ふるさとチョイスアワード大賞、2020年ICT地域活性化大賞奨励賞等々。

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