「森林・林業は、暗くて儲からない」という意識(制約)への挑戦

左:作業道研修、右:軽架線搬出 左:作業道研修、右:軽架線搬出

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年7月号『制約上等!』に記載された内容です。)


1. 実は山の国・高知


 

高知県と言えば、広大な太平洋に面し、室戸岬や足摺岬、さらに、鰹やマグロが有名で海のイメージが強いが、実は日本一の森林率84%の山の国。かつては林業が盛んで、江戸時代(土佐藩)から大径木のヒノキや杉、さらに、木炭、薪を関西中心に大量に移出(大阪市西長堀の地名・白髪橋は、高知県本山町の白髪山で産出したヒノキで作られたことに由来)し、高知県を支える産業として隆盛を誇っていました。

しかしながら、山林から産出される原木の価格が、昭和50年代をピーク(ヒノキ:約8万円/m3、杉:約4万円/m3)として下がり続け、現在ではヒノキ(2万円以下)、杉(1万円以下)と最盛期の4~5分の1へと下がってしまいました。

この過程で、山林所有者が、山から木を伐採・搬出する作業を森林組合などの事業者に委託した場合、原木販売代金から造林・育林・伐採・搬出等の経費を差し引くと、森林所有者の儲けがほとんど出ないという事態が発生し始めました。この頃から、森林・林業は儲からないとの意識(制約)が先行するとともに、県民の関心が急速に薄れ、自分たちの生活とは関係ないといった負のイメージ(制約)が定着し、結果として適切な除伐や間伐が全く行われない放置森林が急速に拡大し始めました。

 


2. 84(はちよん)プロジェクト


 

84(はちよん)の意味は、先に述べた高知県の森林率84%のことで、いわば高知県民のほとんどは森の中で暮らしているのです。高知県香美市在住のデザイナー梅原真氏は、県民が目の前にある山・森(はちよんの森)に関心を持ち、自分たちの個性・財産であると、アタマのスイッチを入れかえれば、明るいビジョンが開けると感じました。そこで、はちよんの森・高知から、地球のことも考え行動する「森をアッカルク楽しむ・84プロジェクト」を立ち上げました。

爾来12年間に亘り、毎年84会議(森や林業に関するテーマで森を語る)を開催するとともに、はちよんの森からの情報発信・プロダクトとして、梅原真デザインによる84ひのき風呂や84もくめん、さらに、84炭など多数を商品化しました。

しかしながら、活動を続ける中で、はちよんの森への県民の認識をもう一段高めていくためには、森を最大限に活用できる林業に注目する必要を感じました。そこで、高知県から全国に向けて小さな林業(自伐型林業)の普及推進を主導する中嶋健造氏(NPO法人自伐型林業推進協会代表理事)と連携して活動を活性化することとしました。

 


3. 日本の林業は衰退産業の代名詞?



そもそも日本は、温帯地域に位置し、降水量も多いことから、樹木の生長が良く、樹種も豊富(杉、ヒノキ、ケヤキ、ミズナラ、カシ等)など世界でも有数の森林資源(森林率67%)を保有する国であり、林業が国を支える重要な産業として展開されていても不思議ではありません。

では何故、日本の林業が儲からない衰退産業の代名詞のように言われているのか。その原因は、政府(林野庁)が推進する現行の委託・請負型林業施策(制約)に問題があると考えられます。

①林業経営の方向性が、森林・林業再生プランにより、所有と経営を分離し、大規模施業が可能な請負事業体と大山林所有者のための林業となり、9割以上を占める小規模な山林所有者の林業離れを加速した。

②一方で、大規模施業を請負っている森林組合等は、現行の木材価格の下では、売上げに占める補助金の割合が7割以上となり、実質赤字補填の補助金がないと存続できない体質となっている。その結果、林業の原木生産額より補助金等の投資額が多くなっている現況は、産業としての体をなしていない。

③皆伐施業(特に50年で皆伐)という手法に大問題がある。山林所有者が、事業者に委託して50年生の木を皆伐すると、現在の材価では経費倒れでそれまでの投資が回収されないばかりか、再造林の原資にもならず経営的に破綻した手法となっている。また、50年生の杉、ヒノキは、A材(建築材)としての利用分が少なく、B材以下の合板・集成材・バイオマス発電用が大部分となり、材価低迷の要因ともなっている。

④大規模化する施業は、高性能林業機械の導入が必然化するとともに、一方で大きな機械が作業するための大きな作業道敷設が前提となる。また、高性能林業機械の稼働率を上げるためには、皆伐や過剰な間伐が必須要件となり、急峻で複雑な日本の山林の急速な劣化を招く要因となっている。連年のように日本各地で頻発している大規模な土砂災害は、異常降雨とともに、皆伐や大規模作業道がもたらす山腹の崩壊が直接の原因となっている事例が多い。

 


4. 小さな林業(自伐型林業)は地方創生の救世主



小さな林業(自伐型林業)とは、

①森林の経営・管理・施業を自ら(山林所有者及び施業受託者等)が行う自立・自営の林業(生業)。
②限られた森で、皆伐を行わず長期に亘り2割以下の間伐(残った木が生長し、面積あたりの材積が増加)を繰り返し、毎年収入を得る多間伐施業。
③多間伐施業と200年の森づくりを両立させ、SDGsを実現する環境保全・共生型林業。
であり、日本の山林を健全化させるとともに、地方創生の最も有力な手段の一つであると確信しています。

現に、高知県では佐川町(地域おこし協力隊卒業者が小さな林業で自立)を中心に多くの移住者が就業し、林業就業者が増加し続けています。一方で、林業は基本的に伐採不適期間の夏場は山に入らないことから、主な就業期間は秋、冬となっています。これにより、小さな林業就業者が空いている春、夏の間に農業や観光業、さらに、自営業等を兼業し、世帯合計で年間500万円以上の収入を得て、地域で余裕のある生活を送っている家族も多い状況が生まれました。

 


5. 小さな林業(自伐型林業)と地域の産業との兼業化



我々NPO法人84プロジェクトは、令和2~3年度の環境省地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業を活用しながら、中山間地域における担い手確保と活性化のため、小さな林業(自伐型林業)の普及推進と地域の産業との連携を目指しています。具体的には、以下の通りです。

①JA馬路村と連携し、担い手不足に悩むゆず畑の管理等を小さな林業就業者が兼業する。

②地栗の生産拡大を推進する(株)四万十ドラマと連携し、栗園の管理・剪定等を小さな林業就業者が兼業する。

③しまんと流域有機農業のブランド化と生産拡大を目指して、(株)しまんと流域野菜等と連携し、小さな林業就業者の中から有機農業参入者を育成する。

④日本一の生産量となった土佐備長炭の原材料ウバメガシの長期安定供給を図るため、備長炭生産者等と連携し、小さな林業の普及と兼業化を推進する。

84プロジェクトは、日本一の森林率84%をブランディングするとともに、小さな林業の普及推進をエンジンとして、はちよんの森に対する意識の制約に挑戦し続けます。

図表 《クリックして拡大》

 

田中 拓美(たなか たくみ)
NPO法人84プロジェクト事務局長。1948年高知市生まれ。高知県庁(36年間)退職後、地域振興や地場産業の活性化を目指して活動する。四万十市雇用創造促進協議会(事務局長)、よろず支援拠点(コーディネーター)等に従事し、2020年6月から現職。

このアイテムを評価
(0 件の投票)
コメントするにはログインしてください。
トップに戻る