家族の幸せに注目すれば、 企業も社会もよくなる 〜バラバラのことをつないでビジョンをつくる〜

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2021年9月号『子どもドリブン:未来に挑む企業の芽』に記載された内容です。)

本荘 小室さんがこのテーマに向き合い始めたころ、おそらく惨憺たる状況だったのではと想像しますが、どうやってここまで前進してきたのでしょう。

小室 2014年9月に、私は安倍内閣の産業競争力会議の民間委員の一人に任命され、初回会合で、この国は労働時間に上限をつけて働き方を短くしていくと、色々な方々の労働参画が進み、社会保障の担い手不足という課題の解決策となり、経済の底上げにつながるという話をしました。
 高齢者が増えていくのに、それを支える側が足りなくなるという構造が我が国の危機であり、特に男性を含む働き方を変えていくべきだと分かりやすく話をしたつもりだったのですが、シーンと静まり返って総スカンの空気が流れまして。
 官邸から翌日お電話をいただき、長時間労働の是正は官邸内でまだ結論が出ておらず前向きではない、あなたは女性活躍の話をしてもらうために入れてあるんだ、と。残業を減らすのは、経済が縮小すると経済界から文句が来るので、そういう話はしてくれるなと。
 このまま事の本質を理解してもらうのは非常に難しいと思いました。そこで、どんな切り口がよいかと考え、少子化に注目しました。
 政府は日々少子化対策に頭を悩ませているわけですが、Howがなくて、政府は的外れな施策をたくさんやってバッシングを浴びていました。女性を優遇するか子どもにお金を配るといった話が多かったと思います。
 その頃、私たちのクライアントのリクルートスタッフィングさんが、3年半のコンサルティングを経て、深夜労働が86%減り、出産数が1.8倍に増えたのです。産業競争力会議の場で、長嶋社長が自らこの話をプレゼンしてくださいました。
 当時の大臣・官僚等の会議出席者には、「長時間労働を是正することが、少子化対策に繋がる」ということが、非常に大きな驚きだったようです。私は「あれっ、それを言い続けていたのに、そこが繋がっていなかったのか」と逆に衝撃を受けたのを覚えています。もっとも、そこで少し空気が変わったくらいで、そこからまだまだたくさんの戦いがあったのですが、働き方改革は経済を縮小させると思っていたのが、いやいや少子化を解決する可能性があるらしいと、最低限の理解が進みました。
 それから、長く日の目を見なかったデータがありました。厚生労働省が11年間同じ夫婦を追跡調査すると、第1子が生まれたときに夫の育児・家事参画時間が長い家庭ほど第2子以降が生まれていたのです。とくに休日に6時間以上夫が育児をしている家庭の8割で第2子が生まれていました。これほどわかりやすい調査結果に注目せずに、3世代同居がいいんだよなどと誰かの昔話や感覚で議論されることが多かったのです。
 こうしてやっと、長時間労働の是正が男性の育児参加につながり、第2子以降が生まれやすくなるという、裏づけのある話として少子化対策が進み始めました。これまでバラバラに議論され、女性と子どもへの優遇ばかりをやっていたのが、少子化には男性の働き方改革と育児参画が要だと、ようやくターゲットが大きく変わりました。




人事部が「男性育休」と言い始めた




小室 もう1つ、モメンタムとなったのは労基法の改正です。これまでの日本の労基法は、世界でも珍しく労働時間の上限がありませんでした。2019年の労基法の改正で、複数月平均80時間以内、単月100時間未満と、これも命を守るぎりぎりの最低ラインですが、やっと上限が引かれました。
 この法改正から、企業の人事部の仕事ががらっと変わりました。それまでは、働く時間に制限のある一部の人が「困った人」でした。例えば、育児時短の女性が配属されると、そのチームのリーダーは扱いに困るため「ウチには要らない」と人事に言ってきます。一部の弱い労働者を保護するために制度や施策をつくり、現場に何とかお願いして働かせてもらうことが、人事の仕事でした。
 ところが、労働時間の上限が定まると、なかなか会社から帰らない大半の男性たちが問題になりました。一部の時間制約のある女性でなく、実はこちらが「困った人」となり、彼らをいかに帰らせるかが仕事に変わりました。
 そこで、早く帰れという大号令で電気を消したり、ペナルティーを課すなど色々と試みたのですが、大多数が会社は出るけれど家には帰らない。新橋辺りのフラリーマンとも呼ばれましたが、残業代が減ったのに飲み代がかさむ、働き方改革なんてロクでもないと、自身の仕事の生産性を上げようともせず、ただの不満分子が激増しました。
 当初、このような状況に会社は「せっかく早く帰らせているのに、何だ!」と憤ったのですが、やがて、彼らをああしたのは私たちだと思い至ります。家族と一緒にいたかった時期に単身赴任をさせたり、育児休業を取らせずに会社に縛りつけたり、家族から一番必要とされるときに家におらず、家族の中で、その他1名みたいな存在になってしまった。家族を顧みず仕事一筋で会社で頑張ってきた人たちに、一転して帰らないのかと言っても、すでに家庭に居場所がないわけですから、そう簡単には動きません。
 これは、20~30代の若い人でも同じことが繰り返されます。ですので、最初の育児スタートアップの時期に家庭と離れてしまわないように、男性の育児休業にコミットする体制を会社がつくっていくことが大切です。これは、各企業の人事部が同時多発的に気づきました。労基法の改正前から、急に男性育休と言い始めて、弊社に続々とお問い合わせが来ました。
 2018年辺りから帰らせようとしたら帰らない現象にぶち当たった企業が、男性を変えるにはどうしよう、そうだ育休だという声が出てきて、2019年の法施行とともに一斉に動いたのです。
 このように労働時間の上限がゲームチェンジを起こし、今回の男性育休義務化につながっていると思います。




経営トップの男性育休100%宣言




本荘 ミドルなど男性育休の対象とならない人たちには、どうアプローチすればよいでしょう。


小室 きっかけは、トップによる変革だと思います。名古屋のあるトヨタグループの企業では3年ほど私どものクライアントですが、その初年度に、働き方改革のトップメッセージをと、社内報用に行なった社長と私の対談が印象的でした。「最近、孫がかわいくてね。僕がかわいい、かわいいと言って孫をかわいがると、『あなたが今、孫がそんなにかわいいのは新鮮だからよ。だって、あなたは自分の子の育児をしなかったから』と妻にえらい怒られるんだ。『あなたの子にもこのぐらいかわいいときがあったんです』と言われ、全然そんな時期を覚えていないので、すごく驚いた。そのころは海外を飛び回って寝ないで働いていたから、自分の子にこんな時期があったのを見逃していたとすると、すごい損失だと、びっくりした。」と。そしてその場で、「だから俺はね、わが社の男性社員にも育休を取ってもらいたいと思ってるんだよ。」とさらっとおっしゃったときに、横で人事部長がひっくり返りそうになっているのを見ました。
 人事部長は、部下の男性に育休なんか取らせたら社長から怒られると思っていたので、社長の育休賛成の言葉に、そんなの初耳だと、驚いていたんですね。そのころは男性育休取得率2%でしたが、今では70%台になりました。
 孫によって自分の意識が改革されたり、海外赴任経験で日本の普通が当たり前ではないと知ったり、経営トップの意識は既に転じているケースがあります。ただし、トップが表現しないと、中間管理職や社員は自分のスタンスを変えられません。
 そこで、名古屋からの帰り道に『男性育休100%宣言』を思いついて、新幹線で企画書を書き、東京に着く前に対談をした社長に「宣言者第1号になっていただきたい」とメールを送ったら、ご快諾いただきました。そして、アイシン精機さんやメルカリさんなど続々と経営者の方々から宣言をいただき、今や106名。さらに増えそうです(図1)。




3人分の命がかかっている




本荘 男性育休の先進企業に続く、フォロワーが増えるために必要なことは何でしょう。


小室 私が経営者の方たちに男性育休100%宣言の説明をしてまわったときに気づいたことがあります。経営者に対して人事の方が男性育休の必要性を説得しようとする際に、夫婦の家事負担の不均衡のグラフを出して育児・家事参画時間の8割近くが女性で男性はわずかだとか、女性管理職の比率や男性の育休取得率の伸び悩みなどを、つい根拠として話しがちです。
 すると、なんだ男女のパワーバランスの話だと誤解してしまいます。男性社員にもっと育児・家事をさせろというのか、などと受け取ると、自分が常日頃から妻に言われている小言を思い出し嫌な気持ちになって、なかなか男性育休に前向きになれないのです。このロジックで説得をしようとすると失敗します。
 私たちが経営者に最初に伝えるのは、産後の妻の死因1位が産後うつによる自殺だということです。産後うつのピークは産後2週間から1カ月です。この時期に男性が2週間の育児休業を取って妻の睡眠不足を支えることで、産後うつによる自殺から救い、その後起き得る幼児虐待から子どもの命も救う。第1子の育児体験がトラウマではなくハッピーなものとなれば、もう1人産もうという気持ちになるわけですから、男性育休には3人分の命がかかっています。
 このような話だと経営者は、よし3人の命を救おう。自分は正義の味方になって日本をよくするぞという気になります。そうか、ウチの男性がたった2週間から1カ月育休を取れば少子化対策になる、しかもウチのネームバリューなら他社や社会にいい影響があるだろう、ならばやろうと。
 これは外資系でも同様です。それまで会社が育休を勧めても男性の大半が取らなかったという大手外資系企業の社長に、私が産後うつと産後の妻の死因1位は自殺であるという話をすると、人事担当者に「君たちはこの数字、知ってたの?」と聞き、人事の方々がうなずくと、「じゃ、どうしてそう言って説得してくれなかったの?すぐにうちの男性社員にこのデータを説明するべきだよ。そうしたら、僕は育休取りたくないなんて言うやつはいないだろう」と。
 その場でその外資系企業は全男性社員対象に父親学級をやると決めました。パパ予備軍のプレパパ世代の人たちや、取引先のプレパパも参加できる形にしました。企業負担で当社の講師が担当し、父親学級を行いました。
 人事が社内へ説明する際、意識が変わるポイントをおさえないと、理解を得られません。男女の不平等、という観点から入らずに、男性育休が日本を救うのだと説得してみてください。




中小企業が生まれ変わる




本荘 中小企業ではいかがでしょう。


小室 中小企業に共通の深刻な課題は採用です。人が採れないから今いる人に負担がかかり労働時間が長い、だから人が辞めていき、さらに荷重がかかる、なおさら採用できない、という負のスパイラルに陥っているのが、特に中小企業に多いのです。
 その中で注目すべきは、サカタ製作所さんです。雪深い新潟の150人程の金属部品メーカーで、かつては採用において学生に全く人気がありませんでした。当時は長時間労働で、とにかく働き方を変えなければという問題意識から、2014年に講演に呼んでいただきました。そこから開眼し、2年をかけて生まれ変わり、今や月平均残業1.1時間、つまり1日たった数分の残業しかしていません。
 具体的に取り組んだことは、属人化排除です。誰か1人が休んだら仕事が回らず、もし社員が交通事故などに遭ったら、この事業どうするのという実態が、坂田社長には衝撃的なほど、至るところにありました。
 そこで誰が休んでも大丈夫なように仕事を棚卸し、地道にエクセルで見える化、共有化をして、仕組みをつくっていきました。社長自身もコミット、たとえ納期が遅れても一旦残業をゼロにしてくれと、社内に宣言しました。
 すると結果として、男性の育児休業が100%になったんです。お互いに仕事が見える化されていることで、誰かが休んでもさっと助け合えて困らない職場になったら、皆さん男性育休を取れるようになりました。さらに、従業員のご家庭で産まれる子どもの数は、それまで年間2人ほどだったのが、今は毎年10人ほど生まれています。働き方が変われば、お子さんが生まれることがサカタさんでも実証されました。
 そして、サカタさんはよい働き方で有名だからと、地元の学校や親から勧められるようになり、優秀な人材の採用に困らないようになりました。
 男性育休は、本人に社会保障があり、企業側も男性育休第1号が出たら74万円もらえますから、金銭的には既にお互いほとんど困りません。仕事の属人化を解決すれば安心して休むことができ、採用にもプラスとなり、社員双方にとってWin-Winになります。



本荘 すると、インナーブランティングと外向けのブランディングに効果があるということですね。


小室 本当にそうだと思います。離職率もぐんと下がる企業が多いですし、結婚数が2倍になったりします。


本荘 結婚数が倍になるとは。


小室 これは三重の調剤薬局さんの事例です。働き方を変えてから結婚数が2倍、出産数が2.5倍になり、翌年の採用のための会社説明会でその結果を話すと、1日目に聞いた学生が、あそこよかったよと口コミをして、2日目、3日目が満席になったのです。54人の調剤薬局の会社説明会はめったに満席になりませんよね。


本荘 大きな会社でも同様のことが起こるのでしょうか。


小室 大きい会社さんは、どちらかというと経営トップが鍵になるのと、大企業において男性が育児休業を取りたいという意識はかなり高まっています。新入社員の男子の8割が、育休を取りたいと回答(経団連調べ)しています。優秀な人材ほど自分の生活だけではなく家族も含めたライフスタイルを重視していると思います。つまり、風土さえ整えば実は育休を取りたいという、マグマがここまで来ているのです。
 今までは本人が言い出さねばならなかったのが、今回の法改正によって会社側が対象となる男性社員に個別に打診することが義務づけられ、抑え込まれていたマグマが吹き出すかと期待しています。来年の春に法改正ですが、法改正を前に、既に今年の男性育休取得率はなんと昨年の倍にはねあがって12.65%になったのです(図2)。




まずは働き方改革から




本荘 こうした変革の実践のために、不可欠なことは何でしょう。


小室 男性の育休推進から入る企業は結局失敗してしまうという落とし穴があります。まず働き方改革から逃げずに挑戦することが鉄則です。
 丸井グループさん、大和証券グループさん、サカタ製作所さんの3社が男性育休ですばらしい成果の数字を出しています。男性育休100%といっても、2日くらいの取得で男性育休クリアとしている会社が多いのが実情ですが、大和証券さんは平均7日程、サカタ製作所さんは平均4週間と、取得率が高く、かつ内容のある育休を実現する企業では、先に働き方改革から入って組織を変えました。
 かつて女性優遇が叫ばれ、育児や介護中の女性に配慮して早く帰らせてやれという風潮のもと、職場で中間管理職は早く帰らせた人の分の仕事を、独身のあなたよろしくねと、残業できる人に上乗せするマネジメントで対応してきたと思います。すると例えば、不妊治療中の方は、体調を大事にしたい週なのに、育児中の人の分の残業が降ってくると恨めしく思い、女性対女性の摩擦が起きがちでした。さらに、育休という制度を使ったからと、その後のキャリアでペナルティーを付けられたりが、当たり前のように起きました。こうして女性たちが「マミートラック」(あたかも競技場のトラックをぐるぐる回るだけで昇給・昇進できない子育てママ専用のキャリアコース) に陥ったように、このままでは男性も同じようにキャリアの道を断たれます。
 働き方を変えないまま、男性育休は権利だから取らせてやれとすると他の社員にしわ寄せがいきます。すると、君がいない間大変だった、優遇されたのだから、この先の昇進は望まないということだな、という話になりかねません。ですから、誰が休んでも補い合える組織をつくることが先決です。本質的な働き方改革から逃げずに挑戦してもらいたいです。


本荘 制度が変わったからと、そこだけしか変えないのでなく、次世代型の会社に進化するいいチャンスにするという話ですよね。


小室 まさにそこです。厚労省からのご依頼で男性育休の取得推進をするポイントは何かというセミナーを実施していますが、制度だけ入れるのは逆効果という話を必ずお伝えしています。




コーチング型のマネジメントへの転換




本荘 企業が変わるときに、チェンジマネジメントというか、エデュケーションが必要だと思いますが、いかがでしょう。


小室 私たちがいま最も多くご依頼を頂くのは、管理職への心理的安全性研修です。自分たちのマネジメント手法は、これまでずっとティーチング型で、こうしておけ、ああしておけと指示命令的に、俺についてこいとやってきた。これは、高齢者が少なく、若者の生産人口が多い、男性ばかりで長時間頑張ると売上が上がった時期には有効でした。多様な部下がいて、お互いに情報共有をして生産性を高めようという今は、コーチング型のマネジメントに変わらなければ成果につながりません。
 仕事の見える化・脱属人化をしようというときに、従来の緊張させるマネジメントスタイルだと、何か報告すると「なぜ1カ月前に言わなかったんだ」と、すぐ怒られるので、言うだけ損です。心理的安全性を高めなければ情報共有しようとする気持ちになれませんよね。
 しかし、多くの管理職は、コーチングという言葉を知ってはいても、今まで褒められてこなかったしオレの柄じゃない、と前に進まない企業が多かったんです。私たちは、それぞれの管理職の方がご自身の性格のまま、日常のコミュニケーションをどう改善したら部下の心理的安全性を高められるかというスキルを身につける研修を行なっています。
 部下の発言にどう反応したらよいか、ノンバーバルのコミュニケーションは、ということを具体的に学べば、心理的安全性と関係の質を高めるようなマネジメントスタイルに変わることができます。マネジメントのスキル転換に取り組まれている企業は、働き方改革も男性育休もしっかりと進んでいきます。




家族を幸せにする新たな日本的経営に




本荘 海外の先進国も、今の日本と似たような数字から大幅に改善したのですよね。


小室 そうです。20から40年位前は、欧州の国々も日本と大体同じような状況だったのです。


本荘 すると、日本でもやればできると思いますが、しばしば日本的な経営は欧米と違うという声も聞きます。


小室 日本的経営が何を指すかですね。


本荘 高度成長期に、工場や社宅が建って、家族的な共同体がつくられた頃の日本の残像を引きずっているのでしょうが、今は異なる社会になり、当時の経営は当てはまりません。地域コミュニティも失われ、女性が働く率が大幅に上昇し、話が違います。


小室 おそらく当時の日本的経営は、社員は男性であることを前提に、その男性の雇用を通じて家族にも良い思いをさせてあげようと設計したものでした。しかしいまや、日本企業の経営は事実上、男性のためにもよいものではなくなってきました。男性だけの稼ぎで家族すべてを支えることは事実上難しい中で、男性は時間無制限に働くことで家族も含めて幸せにするという昔からの日本の考え方が、ここ20年ぐらいはまったく体をなしていない状態です。
 逆に、働き方改革や男性育休といった流れが、男女両方の社員を幸せにし、業績に繋がるという新しい経営を実現します。夫婦ともに仕事をする前提で、家族ごと幸せにしようという、新しいスタイルの日本的経営になるでしょう。




子ども視点による社会のビジョンを




本荘 新たなビジョンが求められますね。


小室 社会のあり方もビジョンが必要です。こども庁ができますが、徹底して子どもの権利・視点から、本当にそれが家族の幸せに結びつくのかを考えていただきたいですね。男性が育休を数日取っただけでは本当の家族の幸せにまで結びつくわけではありません。
 親の休暇促進をしても、子どもたちは学校を休めません。日本では学校は皆勤を期待し、対面主義です。学校が変わらないと家族ではどこにも行けない。それどころか、中学校では部活の練習が多すぎて、家族と過ごせる時間もゼロに近くなるのが実情です。社会人の有休のように、例えば学校を年間10日くらい休んでも欠席扱いにならない仕組みが必要です。家族一体でいろんな体験を積むのはとても有意義ですよね。


本荘 週末や連休は予約を取るのも大変ですし。


小室 土日や夏休み、ゴールデンウィークの家族旅行は値段が高い。宿泊業にとっても、そんな時期に集中されるより、日が埋まれば利益が出ます。コロナ禍で苦しんだ宿泊業のためにも平日の旅行ができるような社会になることが必要です。
 日本は、子どもが保育園を卒業したら、もう平日には家族で旅行できない国なんです。土日に家族旅行だと、渋滞で疲れたと、お父さんは月曜日からつらい顔をして会社に行く。混雑だらけで待ち時間が多く、子どもたちだって楽しくない。しかも、こんなにお金がかかるなら来年まで旅行に行けないね、となりますよね。
 男性育休、週休3日という施策を、子どもを持つことや結婚することに明るい未来を描ける社会にどのようにつなげていくか、全体の設計が大事です。こども庁には、今度こそ、そのビジョンとシナリオを描いて、今の構造を変えることを期待したいです。


本荘 そうですね。そして政府だけでなく、民間も動かなければと思います。


小室 自らが観光業でもある先進的な星野リゾートさんは、休日の分散取得を推進していますよね。家族で年に2回旅行したら(価格差で)可処分所得が40~50万円増えた計算になります。それだけ効果があっても、学校だけは現状は全く変化しないのだそうです。


本荘 小学生が平日に数日休んでも、問題ないのに。


小室 今回のコロナ禍で、文科省で共通で使っている公立学校の教科書に関しては大体オンライン化されました。休んだら、オンラインコンテンツで教科書のこの国語のページを学習とすれば、補完できますよね。


本荘 民間が主導で、縛りの少ない自由な小学校がつくれるかもしれませんね。


小室 そういうものもどんどんつくっていったらいいと思います。先進的に動く企業側でソリューションを考えて、政府に企業連合として働きかけて変えていくのは重要だと思います。




経営者が意識すべきテーマ




本荘 これは言っておかなければ、ということはありますか。


小室 再来年の春から千人以上の企業は男性の育児休業の数字を公表することが義務づけられますが、公表する先は女性活躍推進サイトです。見たことはありますか。


本荘 ありません。


小室 誰も見ないサイトに公表しても、痛くもかゆくもないでしょう。私は有価証券報告書に掲載するべきだと考えています。これに対して金融庁の回答は、男性育休取得率は「株主にとって重要な情報ではないので掲載しない」と。しかし、過去には男性社員が育休から復帰した2日後に左遷されたとツイッターで明らかにし、株価が2割下がりました。男性育休取得率は株主にとって、リスク回避のために重要な情報ですから、有価証券報告書に載せるべきだと考えます。経営者が意識するような見える化が必要で、今回の法改正は手ぬるいと感じています。


本荘 SDGsなどと同様なレベルで経営にこのテーマが取り上げられるようになると思っています。どう旗振りするといいのか工夫せねばですが、こうして発信や行動を起こすことですね。


小室 ぜひ一緒に動いていきましょう。


本荘 本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 

図1・2《クリックして拡大》


(インタビュアー : 本荘修二 本誌編集委員長)


小室 淑恵(こむろ・よしえ)
株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長
1000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方改革コンサルティング」の手法に定評がある。安倍内閣 産業競争力会議民間議員、経済産業省産業構造審議会、文部科学省 中央教育審議会などの委員を歴任。著書に『『6時に帰るチーム術』(日本能率協会マネジメントセンター)『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』(共著、PHP新書)等多数。「朝メールドットコム」「介護と仕事の両立ナビ」「WLB組織診断」「育児と仕事の調和プログラム アルモ」等のWEBサービスを開発し、1000社以上に導入。「WLBコンサルタント養成講座」を主宰し、1600名の卒業生が全国で活躍中。私生活では二児の母。

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