「地方の稼ぐ力」を創る

地方で起きている生活と経済の構造変化
地方は、少子高齢化や都市への人口流出などで人口減少が続いている。

また長引く経済不況の中で、地域に貢献していた有望な製造業は、安い労働力を求めて海外に工場を移転。残された産業は、生産性の低いサービス産業が多く、地方の疲弊は止まらない。


しかしこの様な縮小均衡の中、地方の生活と経済には、新しい動きが出始めている。過疎地や地方都市の買い物難民や公共交通廃止に伴う移動難民の増大。'50~'60年代に建設された道路や橋梁などの社会インフラは、老朽化が進み大規模改修時期を迎えている。


その様な状況に対応するコンパクトシティ化の是非、また高齢者向けの医療・介護・福祉や病気予防への対応は喫緊の問題である。その他にも、再生エネルギーの地産地消化や農業の六次産業化など地域再生のための多くの課題に直面している。これらの社会的な課題は、ある意味では、新しい需要でもある。


ところが地方は、雇用の流動化も進まず、建設や農業、そして運輸、観光、医療福祉などの産業では深刻な人手不足に陥っている。さらに大きな問題は、公的サービスや産業は、地域のつながりやしがらみの上に成り立っていたが、その基盤である町内会や老人会、また地場関連産業などの地縁型コミュニティが崩れてきているのである。地方は、大きな構造変化が起きているが、新しい課題や需要に対応できていない状況である。


地域資源を活かした新産業が生まれている
しかし地方の中には、新しい取り組みにより、新産業を創生する事例が出始めている。例えば、徳島県神山町は、難視聴対策のCATV網を利用してITインフラを整備。


過疎地なので高速通信回線を独占使用できる状況であり、それを売りにNPOや行政が中心になって、都市部のIT企業を誘致。自然環境の中で、ゆったりと仕事が出来るということもありIT企業がサテライトオフィスとして進出。従業員満足度も高い。


島根県隠岐島の海士町は、町長と有志達が大学のコミュニティデザイナーの協力を得ながら、地場産業の魚貝類の付加価値化に取り組んだ。まず都市部のスーパーなどから顧客ニーズを徹底的に聞きだし、物流の鮮度を維持するための新冷凍技術を導入して受注に結びつけ、また外部クリエーターの協力で、特産品のブランド化も行い事業を軌道に乗せた。現在、住人2,400人のうち、1割は新しい仕事に魅力を感じた移住者になっている。


九州の畜産農家は、中国市場を開拓している。物流網の発展により、九州から上海までの海上物流で24時間、空路では約2時間もあれば納品が可能となった。安心安全な食品を求める中国富裕層の需要は高く、九州全自治体や大学も協力し牛乳や肉などの輸出が活発化している。中間層が増大している中国市場は、東京や大阪などの大消費地と比べても、有望な市場である。


これらの事例に共通するのは、地域の各ステークホルダーが、地域衰退の危機感をバネに、地域のビジョンを共有。外部の協力を得ながら自ら顧客ニーズを掴み、地域資源を活用したオリジナルの商品を開発。そして既存流通に依存することなく、苦労しながらも独自に販路を開拓し、継続化のための顧客満足を追究し始めたことである。民間企業をも超える顧客中心の地域横断組織になってきている。


独自の商品で稼ぎ地域内で循環させる
世界ブランドのフェラーリやアルマーニ、ボルドーワインなどは、欧州の地方都市や農村発の商品である。創業者や地域の協力企業が地域資源を巧みに利用して商品を開発し、地場産業に育てた。


その中でも、特に輝く商品を世界に送り出し、卓越したブランドに磨き上げ、国内でも海外でも稼げるビジネスモデルを創りだしている。欧州は、地方自治が基本であり、国家は財政逼迫だが、地方都市が豊かなのは、この戦略によるところが大きい。


一方、日本の地方は、欧州以上に、観光や農業、漁業などの自然資源に恵まれている地域が多い。また伝統技術の蓄積もあり、人材もいる。そして世界一厳しい消費者もいる。見方を変えれば、潜在的なビジネス資源の宝庫である。ただそれらの地域資源を充分に活用できていないのである。


現在、地方は人口減少や産業衰退で、消滅する危機にあると言われている。しかし定住人口が減るなら、交流人口を増やせば良いのである。産業がないなら、地域の市場をもう一度詳細に洞察し、地域に必要な事業を創り出せば良いのである。需要が供給を上回る分野や公的サービスの民営化分野などは狙い目である。


これまで地方は、中央発の横並び政策に従っていたが、地方にはそれぞれの特徴がある。その魅力の本質を炙り出し、期待できる独自の分野に資金と労力を集中させ、顧客にハッピーサプライズを提供できる新事業をトコトン考える。そしてその事業を育て地域に収入を呼び込み、可能な限りお金を地域内で循環させ、持続可能で豊かな地域を創ることが地域活性化の基本である。


新陳代謝を促し民産学官連携で地域力向上
地域力を強化するためには、まず競争環境を創りだし、地域企業の新陳代謝を図ることが必要。本来、廃業すべき企業でも、様々な支援策により延命している。それらの企業が価格競争を行ない、地域全体の収益性を悪化させている。


地域は分かち合いが基本だが、「地域で、ひとりの落伍者も出さない」という行政の姿勢は、過保護であり、度が過ぎている。企業のポートフォリオを見ると、2割で稼ぎ、6割がそこそこ、残り2割は赤字が一般的。その2割の赤字事業から撤退し、稼げる事業に経営資源を集中させる。また地方はサービス産業が7割以上で、その生産性は、欧米の約5~7割と低すぎる。大切なのは、従業員満足を図りつつ、従業員の多能工化を目指すなどして、生産性を向上させ、所得を向上させる事である。


そして製造業や加工食品業の場合は、生産と消費は時間と場所を選ばないので、海外市場を視野に入れ、「小さいけれど世界一」、「グローバル・ニッチ・トップ」を目指すことも可能である。サービス業の場合は、同時性と同場性が特徴であり、地域経済密度を高め、「地域No.1」を目指すべきである。


もうひとつ重要なのは民産学官の連携である。高度成長期は、それぞれの役割を果たしていれば良かったが、現在では、地域全体の知恵を結集しなければ、地域間競争に勝ち残れない時代である。特に、大学は、地域の知財センターであり、課題解決や技術開発のパートナーとして地域の期待度は高い。


これからの地方は、有志をリーダーに、地域の住民やNPO、大学や企業、そして自治体が、目的志向で、また是々非々で相互に連携して、強くて豊かな地域を創り出す取り組みが必要なのである。


ICT活用とネットワーク力で個人力向上
さらに重要なのは、個人の感性力と能力の強化である。他に依存することなく、自ら「人材」を「人財」にすべきである。新しい価値の創発は、地域内外の異質な情報や人財との交流により生まれる。


イノベーションは、新結合なのである。現在は、リアルとバーチャルで、地域に様々なタイプの人財を呼び込み、地域内外の様々なアイディアと融合させ、チャレンジすることが可能な時代である。


ICTを活用したクラウドサービスは、低コストで国内外の様々な知恵を収集できる。クラウドソーシングは、問題解決の強力なパートナーになる。クラウドファンディングは、事業資金を集めることができる。これらは商品開発、業務の効率化、そして人財育成や起業の大きな武器になる。


新しい価値を生み出す人々は、仕事が遊び、遊びが仕事のクリエイティブクラスである。大事なのは、縦割り型や官僚型発想ではなく、起業家マインドを持ち、内向きな仕事は程ほどにして、現場におもむき、勇気を出して”実験”することである。例え失敗しても、その体験は成功の糧になる。そこから「地域の稼ぐ力」は生まれる。



福田  博  (ふくだ  ひろし)
縄文コミュニケーション㈱ 代表取締役
いわきテレワークセンター㈱ 非常勤役員、中小企業大学校講師
主な著書・論文「需要を創造するコミュニティ・ライフスタイル・クリエーション」
 ('03.11/情報文化学会採録)
「個客をつかむ ケータイCRM」共著('01.9/日経BP企画)
「商品別フィールドマーケティング戦略」共著(誠文堂新光社)

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