美と意識を分ける ~芸術家の語る美意識とは何か~

2019年12月号の本誌で「デザインを超えるアートの力」を特集した。様々な方々に接して美意識とは何かを考えさせられた。

美しいということは純粋無垢で、究極は閃光なのかもしれない。美は他に言葉を持たない。また、意識とは当然人の精神や心に深くかかわってくるものである。編集をしていて最も感じたことは、芸術家の美意識は、美と意識の二つに分かれるのではないかということだ。


世界で活躍されている芸術家三人のインタビューから、三者三様の美と意識のありようを考えてみる。 白磁の陶芸家黒田泰蔵さんは、長い間ヨーロッパやカナダに住んでいたこともあり、その精神性や考え方には随所にキリスト教的なニュアンスが伺える。


黒田さん曰く、「神に近づくための道具」がアートであるという。パリの街にはキリスト教的な美意識が現れていると評価しており、本当に美しい街だとおっしゃった。


「どこを見てもバランスがとれているし、調和がとれていて美しいんですよ、パリは。文句抜きに美しい。みんなが共通の信じるもの (神 )があり、共通の目的が無いとこの街はできないなと思います。統一がとれているし、凄くモダンな建物もある。今度のノートルダム寺院の修復にも、おそらくどこかに近代的でモダンなものを取り入れるんじゃないかなと思います。パリは復元する必要がない。パリは古いものもきちんとあるし、超近代的なものと古いものがバランスをとって存在している。だから美しい。それにはキリスト教の力が大きいんじゃないかなと思いました。」と述べていた。


このように、美とは古いものと新しいものが時代を越えて混在する中にあり、人間の意識がなんらかの概念で共通化されたところに美が宿ると黒田さんは言う。


マシーンアーティスト明和電機の土佐信道さんは、ご自分がアーティストとして生んだ作品を、これまたご自分のもう一つの核であるエンジニアリングにより形にして、それをマスプロダクト化し、さらにはそのプロダクトである玩具を使ってパフォーマンスを行うという多重人格的アーティストとでも言うべき芸術家である。


彼の中にある美とは「面白い」という事で、美しいということは人が幸せになるということのようだ。それが美と通じる。しかも作っている作品はナンセンス機械。人間の意識が集約していくコモンセンスではなくナンセンスを追求する。人々の意識の集積ではなく発散だ。挑発的でさえある。それはまるで、人の幸せは各々が勝手に自由に求めるものだとメッセージしているようにも映る。


新進気鋭の画家である小松美羽さんに至っては、美を求めないという。美と写るのは結果であって、それすら観るものの感性にゆだねている感がある。それよりも彼女の関心事は、瞑想する中で沸き起こる魂の移植だ。魂のありようをキャンバスに、形としては狛犬などの神獣を描き、そこに魂を注ぐことが彼女の美の追求である。魂とつながる大いなるものが恐れを生み、それが美しさを感じさせると言う。


当然、魂を第一にしているわけだから、人間の意識の最も深いところまで掘っていくことになる。意識を越え、根源的な魂に触れようとしているのだ。


彼女は魂をスピリットさん、神獣の狛犬を狛犬さんとさん付けで呼ぶ。その呼称に表れる彼女との距離感は、彼女が自分個人の意識を越えて、なにか大いなるものにつながる巫女体質を暗示させる。


このように、彼ら三人の芸術家の話を聞くと、美意識とは我々凡人の中に宿るあこがれや戒めや努力目標のようなものとしか思えない。芸術家の美とはピュアな存在そのものであり、芸術家の意識は大いなるものや宇宙とつながっている無私のものと感じさせる。なので、芸術家個人には美意識は存在せず、ただ美とわたくしを超える意識が独立して神々しくそびえ立っている二つの塔のようなものなのではないかと思ってしまう。


百聞は一見にしかず。詳しくは2019年12月号の本誌アート特集号でご確認願いたい。




吉田 就彦(よしだ なりひこ)
デジタルハリウッド大学大学院 教授
デジタルハリウッド大学大学院教授。㈱ヒットコンテンツ研究所代表取締役社長。自ら「チェッカーズ」「だんご3兄弟」などのヒット作りに関わり、ネットベンチャー経営者を経て現職。「ヒット学」を提唱しヒットの研究を行っている。木の文化がこれからの日本の再生には必要との観点から、「一般社団法人木暮人倶楽部」の理事長にも就任。現在は、ASEAN各国にHeroを誕生させる「ワールドミライガープロジェクト」に没頭中。著書に「ヒット学~コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則」、共著で「大ヒットの方程式~ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する」などがある。

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