世界の子どもを感動させる、 史上初の「ねんドル」

岡田さんご自身が毎年デザインする衣装 岡田さんご自身が毎年デザインする衣装

ねんど職人+アイドル⇒“ねんドル”という新結合のイノベーションを創造し、粘土をテーマにしたアーティスト、教育者、パフォーマーとして新境地を切り開いてきた岡田ひとみ氏に、ご自身がどう革新・進化してきたか、そして、子どもの喜びと創造性を育む活動について、お話をうかがいました。

アイドルからピボット(転換)

 

岡田 子どものときからエンターテイナーになりたくて、自分でオーディションを受け、高校2年生のとき文化放送でデビューしました。10代の頃は、テレビやラジオの番組や雑誌に出たいという夢しかありませんでした。でも、既存の番組には今出演している人がいるので私は必要ないと感じるようになりました。デビューからしばらくして、この先どうしようと悩み、文化放送でお世話になった構成作家の事務所を訪ね、作家の方々に相談しました。
 そこで、人と違うものや特別なものがないかと聞かれ、もともと粘土が得意でミニチュア作りが趣味だったので、作品を見せたところ、皆さんとても驚いてくれました。2002年の22歳の誕生日に、ねんどを作るアイドル“ねんドル”として今の仕事をスタートし、表参道同潤会アパートで個展を開いて、それが様々な方々に知っていただくきっかけになりました。
 アイドルが企画書を書くことはあまりありません。しかし、どんな人に何を伝えたいかが大切だと教わって、私にはそれが薄かったことに気付き、やりたい番組や本の企画書を書くようになったのです。子どもが大好きなので、粘土を通じていろいろと伝えることができる子ども向けの企画を考えています。
 粘土教室を楽しくしたいとはじめて、たくさんの子どもたちが来てくれるようになりました。テレビの子ども番組に出演して、その影響力に怖くなってしまいましたが、そこから教育学を学びながら、どのように伝えればよいか考え、子どもたちに対応しながらでき上がってきた感覚があります。

─── 怖くなったとはどのようなことですか。

岡田 例えば粘土教室で、私が子どもたちに発した一言が一生心に残るかもしれません。また、災害や何かあったときに、私がすぐに対応できなければいけません。はじめは、保護者がいない子どもだけのワークショップも行っていたので、責任重大だと思い、救命救急などの講座を受けました。また、子ども向けの教育のことなどを勉強するようになりました。
 教育学に力を入れている都内の大学に4年ほど週に3回ぐらい夜に通って授業を受けました。社会人も大学生と同じ試験があるので大変でしたが、メディアリテラシーや発達障害の方への対応、海外の教育など、本当に勉強になりました。

 

オリジナリティで切り開く活動と世界観

 

─── 粘土について師匠はいますか。

岡田 それがいないんです。子どものとき紙粘土で見よう見真似で作ることからはじめて、高校生のときはミニチュアにハマってたくさん作りました。新たにはじめようとなったとき、ミニチュア作家の方の本を何冊か買って、まずはそれを見て材料を学んで練習しました。そこから徐々に自分でアイデアを出しながらという感じで、独学です。いまだに私の作り方でいいのかと思うこともあります。ですが、20年前より自分の腕が上がっていることを実感します。終わりはなくて、作れば作るほどうまくなると思っています。

─── ミニチュアの専門性と粘土の掛け算は、ふつうの人がイメージする粘土のように単純なものではないと思います。

岡田 本格的なミニチュア作品を作るときは樹脂粘土、子どもたちに教えるときは軽量粘土を使用しています。臭いもほぼなく、手にも付かない、使いやすい軽量粘土を監修しました。感覚過敏や粘土を触りたくないお子さんや、臭いが苦手という保護者の方でも、この粘土なら使えるという声をいただきます。高齢の方もリハビリテーションで使えます。触っていて気持ちがいいので、大人もハマる方がたくさんいらっしゃいます。
 この軽量粘土『オー!ねんど』は、私がデザインしたパッケージに生まれ変わって2020年に発売開始しました。海外の方にも使ってほしいと、裏に英語でも表記をしています。
 海外に行くと粘土のリサーチをしますが、これほど使いやすいものは見当たりません。海外の粘土は大抵がカラー粘土なので、粘土自体に絵の具を混ぜて作ると驚かれます。塗るのではなく混ぜることに、最初は日本でも驚かれましたが、混ぜることで均一に色がついてきれいにできます。こねて色が変わっていく楽しさもあります。より良い粘土を使って、子どもたちの“粘土力”が広がっていけばいいと思います。

─── 良い材料を使って、どう作ればよいのでしょう。

岡田 私が粘土を始めた頃は作り方の本がほとんどなかったので、子ども向けの作り方を毎日考え、開発していきました。ワークショップで皆が一緒にできて満足できるような作品開発に今も力を入れています。
 子どもたちの満足度は大人たちが思うものとは違います。見よう見真似で楽しく作って、できた!と喜んでくれればいい。私の作品とそっくりに作ってほしいわけではありません。自由にするにしても、最初にベースがあったほうが発想も湧いてきます。粘土を楽しむきっかけを作りたいのです。テレビではそれを見せたいと思っています。

─── 特に難しい点は?

岡田 子どもたちに教える新作を考えるのが最も時間がかかります。ワークショップやNHKの番組で教えているものは、3歳以上を対象にしていて安全に作れるものです。あまり難しいものを作ることはできませんが、簡単過ぎるものも面白くありません。家に帰ってもできるように、身の回りにあるモノを使うようにしています。

─── コネルは、おねんどお姉さんのときよりも、紙コップなどいろいろなモノを使います(コネル:NHK Eテレ「ニャンちゅう!宇宙!放送チュー!」のコーナー『宇宙ねんど遺産』に出演する岡田ひとみ演じるキャラクター)。

岡田 NHKの番組でコネルという新キャラクターを出すときに、ゴミをゴミにしないことや、身の回りにあるものの見方を変える提案をしました。安全ピン一つでも何かに使えないか、薬を飲み終わった後のケースを使えないか、と常に考えています。

─── 今はNHKのショーで全国を回ったり、1万人の大会場で粘土をこねるのは岡田さんならではですよね。

岡田 粘土を始めた当初はメディアで粘土を使ったパフォーマンスをすることはあまりイメージできませんでした。子どものときはステージで歌い踊ることを思い描いていましたが、諦めずにチャレンジし、自分の得意な粘土を通じて、その夢を叶えることができ幸せです。
 ステージで粘土のミニチュアをこねるのは、誰もやろうと思わないかもしれませんが、教育番組に出演させてもらうようになってから、新しいエンターテインメントとして広がり、皆さんに楽しんでもらえるようになったと思います。

─── 単に得意で昔から好きだからというより、世界観を表現する手段の一つですね。

岡田 お子さん向けなので衣装を重視し、自分でデザインしています。自分が小さいときにこんな色合いの服が着たかった、という衣装を着て子どもたちに近づきたいと思っています。海外のワークショップでも、ラジオ番組でも、必ず衣装を着ています。この世界観は大事にしています。

 

世界の子どもたちに笑顔を

 

岡田 子どもの頃から日本の芸能エンターテインメントにしか興味がなかったので、英語の勉強はせず、海外旅行をしたいとすら思っていませんでした。ところが、2009年に友人とフランスとスペインに行ったところ、これほど楽しいのかとハマってしまい、帰国した翌日にペルーに行く予約をしました。それからほぼ毎年、いろいろな国に行っています。
 現地の子どもたちと交流したいと思い、最初に海外でワークショップをしたのがカンボジアの孤児院です。そのすぐ後に訪れた米西海岸では、友人の子どもが通っている幼稚園でワークショップをさせてもらいました。
 最初にニューヨークに行ったときは、検索に出てくるニューヨークすべてのミュージアムに連絡して、ワークショップをさせてください、できなければワークショップの見学をさせてくださいとお願いしました。アメリカ人女性が運営しているアートスクールが気に入ってくれて、何度もワークショップをさせていただき、コロナ禍でもオンラインレッスンを開催させてもらいました。

─── 岡田さんと私が会ったのは2014年のトウフ・プロジェクトでした(トウフ・プロジェクト:ストーリーテリング、デザイン思考、イベント等を通じて日本とアメリカの起業家やイノベーターを繋ぐことを目的として設立されたNPO)。

岡田 少しでも英語が話せるようになって海外の子に教えたいという思いで、サンフランシスコに6週間の語学留学に行きました。そこで現地の様々な方に会ったのですが、その中でトウフ・プロジェクトの方に興味を持っていただき、サンフランシスコでの約1週間のプログラムに参加することになったのです。
 今、大活躍されているメディアアーティストの落合陽一さん、LGBTQ関係のオピニオンリーダーの一人の杉山文野さん、それから横須賀市議会議員を務めている加藤ゆうすけさんと私の、個性豊かな4人がメンバーでした。
 最初は皆のパワーについていけませんでしたが、次の日からパフォーマンスや表現をしているうちに皆との絆が深まっていきました。仕事のため1日早く帰国せねばならず、別れで大泣きしました。未だにプロジェクトのメンバー同士仲が良く、縁がつながり道が広がり、本当に参加して良かったです。

─── 海外での体験で、活動や表現への影響はありましたか。

岡田 どなたも私のことを知らない場でのワークショップは容易ではありません。1人で行くと対応し切れなくて、途中でどうしようと思うこともありました。それを繰り返しているうちに良い意味で図太くなって、何とかなると思えるようになりました。
 また、先入観や狭い世界で生きていたと気付きがありました。日本の雪だるまは2段ですが、アメリカだと3段です。クッキーもサンドイッチも、日本と海外では違います。国による文化の違いを教え合えるので面白いです。子どもたちの質問も日本と違います。ニューヨークでは、あなたはどのようにお金を作っているのか、その衣装は誰が作っているのか、と小さい子どもが聞いてきます。
 ワークショップが終わると、子どもたちがハグをしに来てくれて、大人もとても好意的になってくれます。保護者や先生など皆がとても興味を持ってくれ、交流が続いている方もいます。
 それから、ヨーロッパには子ども向けも含め粘土教室がたくさんありましたが、ほとんどが陶芸教室でした。「これほど小さいものを作るのか」とドイツの陶芸教室が興味を持ってくれ、ワークショップをやる予定です。
 アメリカで売れている粘土で、遊んだ後に作品を保管せずに捨てるような商品もあります。日本の保育でよく使われる油粘土は繰り返し使えます。
 軽量粘土は繰り返し使えるものではなくて、作ったら乾燥させて一生とっておくことができます。私が小中学生のときに作った作品は今も実家にあります。違う粘土のジャンルで、新しいものづくりの楽しさを広げていきたいです。

─── 海外というとスポンサーが欲しいですね。

岡田 できるだけ多くの所に行ってより良い状況で行うためには、自分だけではなく周りの方の手助けも必要です。
 粘土をはじめて見るような子どもがいる国をいくつか回りましたが、とても喜んでくれます。例えば、親から虐待を受けて育った子どもたちが集まるブータンの修道院では、目を輝かせて楽しそうに粘土を作ってくれました。過酷な環境で育ったザンビアの孤児院の子どもたちは、本当に嬉しそうに笑って、もう一回したいと言ってくれました。今までにない体験を子どもたちに広げていきたいという強い思いがあります。皆さんの協力があればもっとできると思います。

 

9月1日は「ねんどの日」

 

岡田 9月1日は「ねんどの日」です。901でクレイ(英語で粘土の意)と読めます。日本記念日協会に「ねんどの日」を申請して2011年に正式に認定されました。この日は子どもだけでなく、大人の方にも粘土を楽しんでいただきたいです。毎年9月1日に新衣装を発表していますが、子どもたちが粘土教室に同じ衣装を着てきてくれることもあります。
 テレビ番組を見てくれる方は5歳前後のお子さんが多いので、粘土教室はそういったお客さまが多いです。小学校高学年や中学生の方は、私と同じで小さいときからミニチュアやものづくりが大好きな女の子や男の子が新しい技を学びたくて来てくれます。今はオンラインレッスンも毎月行っていますが、毎回参加してくれる方が全国にいます。皆さん、私が言った通りだけではなく、それ以上のものを自分のアイデアで作ってくれます。

─── これからの展望を教えてください。

岡田 できるだけ全国の子どもたちに実際に会えるイベントを行いたいと思います。ワークショップがいろいろなきっかけになったと大きくなってから言ってくれる方もいます。海外のワークショップも増やしたいです。粘土は言葉を超えて一緒に楽しめるものですから、日本と海外の子どもたちをつなげるようなイベントもできるといいと思います。
 最近では、教えていた子たちから就職や結婚の連絡をもらうようになりました。そろそろ元生徒たちの子どもを教えることもできるでしょう。続けることは楽しいです。ぜひ皆さんにも童心に帰って粘土を楽しんでいただけたら嬉しいです。

───良い話をありがとうございました。

岡田 ひとみ(おかだ ひとみ)
ねんドル、エデュテインメントアーティスト

2002年、ねんど職人+アイドル⇒“ねんドル”を宣言。創造性と想像力を育むことを目的とした親子ねんど教室、書籍の執筆、原型デザインなどを行い、粘土の持つ可能性を探るエデュテインメントアーティスト。 ねんど教室は年間10,000人以上に直接指導、海外でも五大陸30都市以上で開催。日本やニューヨークの子どもたち向けにオンラインレッスンもスタートした。 
現在、NHK Eテレ「ニャンちゅう!宇宙!放送チュー!」のコーナー『世界ねんど遺産』に“おねんどお姉さん”として、そして、新しいキャラクター“おねんどお姉さんのお姉さんコネル”として『宇宙ねんど遺産』のコーナーにレギュラー出演中! 子どもたちの間では「おねんど」「こねこね〜こねこね〜」「うふふ」は人気のワードとなっている。

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