「学生」という制約下で 挑戦し続けるということ

SIBOPとは
SIBOP(Student Inclusive Business Organization for Progress INDIA)は、インドに渡航し日本企業のマーケティング代行調査を行う調査団体だ。

しかしSIBOPは一般的な調査団体よりも厳しい制約に縛られている。SIBOPが他の調査団体と大きく異なる点は、営業・人事・運営・調査をすべて「学生のみ」で行う点にある。

SIBOPは活動理念として、「日本企業の新規市場への進出」と「ビジネスによる途上国の発展」を掲げており、学生のみでの日本企業の途上国市場への参入によって閉塞感漂う日本経済に転機をもたらすと共に、途上国に日本の技術力を投入することで教育・雇用機会を創出する事を目指している。

毎年、SIBOPにはこの2つの活動理念に共感した入会希望者が、様々な大学から集まってくる。その中から選抜された10人弱の大学生が年2回の長期休み期間中(春、夏)にインドへ渡航し、現地での製品需要やローカライズの手法など、日本企業から依頼を受けた調査を学生視点で行なっている。

現地では民族衣装を着て、インドの人々と同じように生活し、寝食もともにする。このようにインドの生活に溶け込み、深い理解ができるからこそ、学生ならではの革新的なアイデアを生み出すことができるのだと思う。
 

SIBOPが抱える2つの制約
しかし、学生であることは強みである反面、多く制約にもなっている。SIBOPが抱える制約は主に「内的要因」と「外的要因」に分けられる。

内的要因による制約は、メンバー全員が学生のため、限られた時間内で調査の質を発展・深化させることが難しいという点である。大学生活4年間を丸々SIBOPにコミットしても、調査の質やマーケティング、BOPビジネスの知識を養いスペシャリストになるにはまだまだ足りない。

加えて歴代のメンバーを鑑みると大学1年でBOPビジネスに関連する問題意識を持ち、2年生になってからSIBOPに加入することが多い。しかし、大学3年になると就職活動が始まる為、実質的には大学2年の1年間のみの活動参加となってしまう。

「学生ならではの視点」を追求したいものの、このような学生特有の「時間的制約」があることから、結局「学生ならでは」というより「未熟な」調査団体になってしまうという危機に常に晒されているとも言える。

次に外的要因による制約だが、これはいくらSIBOPが団体として調査・提案の質を向上させても「学生なんかに、できるわけがない」と一蹴されてしまうというものである。

SIBOPは2011年に創設されて以来、年に2回、インドでの渡航調査を続けているが、渡航の5ヶ月前から日本企業にクライアントになってもらうため、毎日100社以上テレアポやメルアポを行い、授業の合間を縫って企業を訪問している。

その際、事前に企業の研究はもちろんのこと、その企業がどのように製品をローカライズし得るか、需要見込みはどのくらいか、どのようなマーケティング戦略でインド進出を達成できるかという、今まで積み重ねた調査データベースから導き出された個別企業宛の提案をしっかり準備している。

関連する本を読み漁り、団体内でアイデア出しの講習会を行ったり、専門家にお話を伺ったりと提案の質向上にも日々努めている。しかし学生であることでバイアスがかかり、企業から相手にされず、なかなか評価していただけないと感じることも多くある。

そのバイアスの理由としては「学生に信用を置けない」という声が多い。この制約はSIBOPの活動にとって大きな足枷となる。「学生ならでは」の強みに持っているのにもかかわらず、その特性を「学生なんかに」できないと取り違えられてしまうからである。

私がこの団体の創設メンバーとして4年間活動に参加する中で、これらの制約をうまく克服することができず、メンバーが自分を含め2人になってしまったこともあった。

「こんな活動していないで、『学生らしく』就職活動をしていなさい」と企業の方に言われたこともあった。しかし、これらの制約を前に尻込みはしたくなかった。SIBOPに与えられた制約をしっかりと受け止め、その中で工夫をして活動を続けて挑戦することを私は選んだ。


制約とのつきあい方
まずSIBOPが抱える学生特有の時間制約に関しては、組織体制をしっかり構築し、「Team SIBOP」という意識の下、結束を固めることにした。具体的には、メンバーの入会条件として最低2回のインド渡航を提示し、春と秋に半数ずつ渡航メンバーが入れ替わる体制にした。

また所属メンバーを渡航メンバーとOB・OGメンバーに分け、通常の渡航メンバーのみの定例ミーティングの前にOB・ OGメンバーによる30分の講習会を開催する体制を作った。

これにより、知識の共有、継承を下の代にしていくことができるようになった。また、理念として「Team SIBOP」を掲げることで、メンバー個々の成長だけでなく、SIBOPという組織自体を成長させるという意識づけも徹底した。

また、SIBOPが抱える日本企業に漂う「学生に対しての不信感」という制約に関しては、理念として「Be professional」を掲げることで改善を試みている。

具体的には、学生であることに甘えず、調査のプロ、南インドのプロ、BOPビジネスのプロとしての行動を徹底している。社会人に対しての礼儀はもちろんのこと、営業の前の事前準備をしっかりしたり、各人でプレゼンテーションやリーダースキル、マーケティングの講習に参加したりと様々な方法でプロとしての行動を身につけるよう努力している。

その結果、学生なんかにできるはずがないという予想を大きく上回る結果、つまり「学生にできるわけない」という予想を大きく裏切った時に、その制約が逆に味方になり、大きな信用を得ることができる。

このように制約とのつきあい方を考え、制約を味方につけたことで最近では、企業の方から声をかけていただく機会も増えてきている。この制約だらけの中で確固たる理念を持ち、トライアンドエラーで何度も挑戦し続け地道に成長していく姿勢を周りに積極的に見せていくことで、この閉塞感漂う制約だらけの日本を少しでも変えられたらと思う。

「日本のポテンシャルを活かすために今、何ができるか」、その1つの答えは、制約と向き合い、工夫をして挑戦していける若者を育てることだと思う。




小澤  萌子  (おざわ  もえこ)
SIBOP全体統括/早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科4年
大学1年次に他のメンバーとともにSIBOPを創設。創設以来、十数社に及ぶ日本企業のインド市場調査を手掛ける。卒業後は英国の大学院で開発経済学を専攻予定。

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