極めるためには適度もカギ

23区での聖地

巡礼人口減少社会のなかで、全国の多くの自治体が「人を集める」手段のひとつとして、アニメに注目している。アニメは人を集め、消費を生み、拡大させる起爆剤となる。


江東区では、深川仲町通り商店街振興組合が中心となり、バンダイナムコエンターテイメント、バンダイナムコスタジオ、東京電力パワーグリッド、江東区が、「理由(ワケ)あって、門前仲町」を2018年12月~2019年1月に実施した。


これは、「アイドルマスターSideM」の舞台が門前仲町であることにちなみ、同地区での電柱などを活用したラッピングポスターの実証実験を行ったものでもある。訪れた人は、電柱のポスターの中からお目当てのアイドルキャラクターを発見していく。門前仲町への来訪者の増加はもちろん、経済面での活性化を狙ったものである。


また、豊島区は、全国でアニメ消費を拡大するアニメイトと共に「アニメの聖地 池袋」を今後世界に発信するために、池袋PRアニメを制作した。SNSやネット環境の拡大は、オタクと呼ばれるアニメファンを拡大している。オタクは若い世代を中心に一般化されつつある。


上野地区での「三つ星カラーズ」の取り組み
三つ星カラーズは、カツヲによる日本の漫画作品。月刊コミック電撃大王(KADOKAWAアスキー・メディアワークス)にて2014年9月号から連載をしており、2018年1~3月まではアニメとして放送された。


上野の公園をアジトとし、上野の平和を守るために正義の組織「カラーズ」を結成した結衣、琴葉、さっちゃんの小学生3人が活躍する物語である。


アニメ本編放送開始前後には、制作側が上野地区にファンを集客するために、アメ横商店街での主演声優によるロケ撮影、うえの桜まつり、うえの夏祭りとのコラボレーションを行ったほか、アニメの舞台を巡る聖地巡礼アプリのサービスを開始した。


また、台東区のフィルム・コミッションは、上野駅前ペデストリアンデッキでのポスター展示、ふるさと祭り東京でのポスター、ロケ風景写真などの展示やチラシの配布を行ったほか、台東区役所や台東区観光の各種SNSでも広報が行われ、官民での取り組みが展開された。


巡礼者たちは、アニメそのままの景色を探して、上野の街を探しまわる。注目すべきは、すでに閉店してしまったが、アニメ主人公の実家のもととなっている果物店「ニューフルーツ」のお店の人や聖地巡礼ノートでのファンとの交流である。


アメ横にある生フルーツのジュースで有名な同店。巡礼者のブログを読むと、お店の人から、「おっカラーズオタクか!」と声をかけられたことや、ノートを通じたファンとの交流が「喜び」となっていることがわかる。


人との触れ合いがもたらす幸福感が「上野でまた作品に浸りたい」という気持ちを生み出し、SNSなどによる拡散につながっていく。いまもニューフルーツはツイッターのなかで、三つ星カラーズを応援していると宣言している。


台東区には、上野公園、上野動物園、雷門、浅草寺などがあり、日本のみなならず、近年は外国人旅行者などが激増している街である。そうした中で、集まる人たちを増やし、訪れた人たちを回遊させ、リピートを目指す努力は、街全体に「おもてなし」をする気持ちが定着していることも大きい。


はまる対象によって異なる聖地をリピートする理由
ジャニーズにも嵐ファンの聖地巡礼(大野神社、櫻井神社、松本神社、相葉神社、二宮神社、赤城神社、宮地嶽神社など)などがある。


しかしながら、対象がリアルな場合には、人との触れ合いはそれほど関係ないようにみえる。リアルなアイドルファンの巡礼者たちは、出会う人たちよりも、好きな人に近づけたことが満足を生む。


ミュージカルや映画にもなっている刀剣乱舞1)のファンたちは、全国各地で保存される名刀をみてまわる人も多い。その影響からか、全国の様々な美術館で、刀の展示会が増えている。


アイドルファンと同様、旅や交流を楽しむというよりも、実際に自分の目で、推し(ファンとなる対象)の縁のものを見たいという気持ちが強い。登場人物、推しとの一体化に喜びを感じている。


こうした原作ありきの舞台や映画は、あくまでも「原作」が好きというファンも多く、キャストたちは自身が出演する他の舞台もみてもらいたい、つまり、自分をリピートしてもらいたいという気持ちから、原作への愛をSNSで語りファンの気持ちをつかんでいく。地道な努力が求められる。


適度もカギ、関連する消費に視野を
聖地巡礼者たちは、勝手に自分で対象への愛と行動を深めていくものとらえられがちだが、三ツ星カラーズにみられるように、実際には仕掛けのなかで動いている場合も多い。


一方で、大切なことは仕掛けを教えすぎないことである。自分たちで、たどり着くことこそが楽しみを拡大する。自分で考え、動いてもらう「塩梅」を、沼のなかでどのように決めるのか、見極めるのかが重要だ。


そして、街の人の協力も不可欠となる。これは対象がリアルであるかどうかは関係がない。関与の低い消費であれば、簡潔な導きが求められるが、超高関与消費の場合、企業は彼らが自ら極めるために「多くの仕掛け」と「適度な導き」をセットで用意することが重要になるだろう。


これは、お客さまのロイヤリティの向上や、価格の高い商品やサービスのマーケティングにも通用するのではないか。3COINS2)は、うちわ入れやヲタ活手帳など、オタクむけの商品を数多く販売し、話題を呼んでいる。超高関与消費者の興味を満たす仕掛けづくりはさまざまな企業に関係がある。超高関与消費者は企業にとってターゲットとなる可能性を大きく示している。



【注釈】
1)刀剣乱舞 : DMMゲームズとニトロプラスが共同製作したPC版ブラウザゲーム、日本刀の名刀を男性に擬人化した『刀剣男子』を収集・強化し、日本の歴史上の合戦場で出没する敵を討伐するゲーム。
2)3COINS : 気軽に楽しめるおしゃれ雑貨、毎日を楽しくさせるかわいい雑貨、使いやすい生活雑貨など、あなたに “ちょっと幸せ” をお届けする300円アイテム中心のショップ。株式会社バルが経営する。



中塚  千恵  (なかつか  ちえ)
東京ガス株式会社
日本女子大学文学部卒業、東京ガス株式会社入社。同社都市生活研究所で、約20年間、食、住まい、入浴、単身者、富裕層などのライフスタイル研究を行う。

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